ABOUT
ART FOR THOUGHT(アートフォーソート)では “the foundry” シリーズ vol. 6として、山浦のどか「夜と、少しの朝の気配。」展を開催します。
朝と夜、美しさと畏怖、可視と不可視──作家が夜桜を通して垣間見た感性は、既知を繊細に解きほぐしやわらかな知覚を呼び覚まします。
和紙と出会い徳島に移住したことで見えてきた環世界を、現代の感性で探る作家の新作を、ぜひご鑑賞ください。
ARTIST STATEMENT
4/2、「夜桜を観に行こう。」そう思い立ち、辺りが暗くなる時間帯から車を走らせた。
国道から山道に入り、この道は枝垂れ桜が綺麗よと聞いていたから、辺り一面がその桜なのかと思いながら走る。オレンジ色の電灯に照らされたそれらは、私の知らない桜の姿だった。綺麗というより、なんだか怖かった。トンネルをくぐり、左折して 2km 程。真っ暗な山道を一人車で走ってゆく。どんどん不安になるくらいの暗さと崖路。到着したのに桜は照らされておらず、情報に踊らされ、落胆しながらもここで引き返すのもと思いもう少し先の夜桜を見るために数分走る。こっちはライトアップされていた、よかった。縋る思いもあってホッとしたのに、目の前に広がる桜並木は綺麗というよりやっぱりなんだか怖かった。友人の家に泊まり、早朝に下山。知っている桜の色と形を見た時にはすこし安心してしまった。
物事の美しさと怖さは表裏一体の気配が宿っているのだと、この日を境に強く感じるようになった。
きっかけの前置きが長くなったのだけれど、そんな一日から、私の意識は夜の気配に取り巻かれている。そして、少しの朝と。
見えている情報が全てではないこと。思っていたことが自分の頭の中のものと違ったとしても、それはそれで存在していて、見えてないだけで目の前には確かにあるということ。その瞬間にも感情や生命に光は宿って呼吸しているということ。
まだ漠然とした解釈だけれど、今は「気配」という言葉が気になる。
私は、気配を描いているのかもしれない。
— “the foundry” シリーズとは —
”the foundry”は、日本の伝統工芸と現代美術を掛け合わせた表現に挑む若手作家を紹介する展覧会シリーズです。
元来、日本美術は生活の道具としての側面も持っていました。生活用品や調度品として季節や思想を部屋に取り入れ、日常をそっと異化しふくよかにしてくれるものでした。本シリーズは、繰り返される毎日を豊かに心地よく送るために、そうした暮らしのための実装を現代社会に再提示していく試みです。
銀座は、かつて江戸時代に銀貨を鋳造し生活の潤滑油として浸透させてきた場所でした。日本の伝統技術と現代アートの表現性によって、いまいちど用の美としての日本美術を鋳造していく––そんな静かな挑戦が、はじまります。