ABOUT
ART FOR THOUGHT(アートフォーソート)では大小田万侑子「つゆくさひめ」展を開催します。
型染の繊細な描写と和紙のあたたかみあるテクスチャーで、絵本「つゆくさひめ」を4月に出版する大小田。動植物や古事記にインスピレーションを得た神秘的な世界を、原画展示を通してぜひご堪能ください。
ARTIST STATEMENT
子ども時代、母親に沢山の絵本を読んでもらい、そこから空想して絵を描いていた。この体験は、今でも鮮明に思い出されるほど日常的であった。小学生の時に、日本最古の書物である『古事記』に興味を持った。後に母親が『古事記』の朗誦をするようになり、その関わりは母親を通して深くなっていった。母親による、生命の響きに耳を澄ませて声を出す朗誦という表現が、神々や古代日本人の心を感じようとする作家の制作姿勢に影響を与えている。その上で、様々な神話や伝承の物語が作家を通して作品の上で構成され、創造の物語として表現される。
これまで型染から生命感を表現しようと作品を制作してきた。この生命感は、作家の芸術表現の根幹にある物語性から生まれる躍動感のある線が、型染の模様として染色されることによりなされる表現である。物語性とは、古くから語られてきた神話や昔話、伝説、幼年期より触れてきたお話の世界が根底にあり、多くは母親からの絵本の朗読を通して得た体験により培われた感性であると考えている。
型染で表される模様は、動物、植物、 人、自然現象、架空の生きもの等が題材となる。作家は実際に生きものや自然を体感した時、「生き生きと息づくいのちがそこにある」と感動し、そこに向けられた信仰から起きる歴史や文化に物語を創造する。生命感は、生きものや自然から現実的に感じるものというよりも、これらを体感した作家自身の内にある物語性によるものである。それが作品に展開された時、作家の自然への憧憬や、古来の人々と神仏への畏敬の念として表れる。
『つゆくさひめ』は、型染が原画の絵本である。和紙に糊を置き、黒い染料を刷毛で染める。その表現は、⼿描きとも版画とも染⾊された布とも違う独特な美しさを放ち、物語を引き立たせる力を持っていると考える。
絵本制作は、絵本により培われた作家の芸術性に向き合う行為でもある。作者の中にある物語を、型染と和紙、絵と文章によって確かに表現することを試みた。