INTRODUCTION
東京・銀座のギャラリー「ART FOR THOUGHT」(アートフォーソート)で開催中の山浦のどかの個展『夜と、少しの朝の気配。』。現代和紙作家およびグラフィック・空間デザイナーとして活躍する山浦が、桜を通して見た「世界」とは。
阿波和紙の製造に自ら携わり、和紙と対話するかのように作品づくりに取り組む山浦が、これまでの制作活動や本展に込めた想いについて静かに、そして熱く語る。
INTERVIEW WITH NODOKA YAMAURA
──「ART FOR THOUGHT」では、2024年7月27日(土)~ 8月29日(木)にわたり、山浦さんの個展が開催されています。本展では、山浦さんが和紙と出会い徳島に移住したことで見えてきた環世界を、現代の感性で探る新作を展示されているとのこと。まず、山浦さんと和紙との出会いについて教えてください。
2019年に徳島の阿波和紙との出会いがありました。同年の冬に、アワガミファクトリーが主催しているアーティストインレジデンスに参加し、大きな和紙の作品を制作した感動がきっかけです。それまでは完成された一枚の紙しか知らなかったのですが、和紙が出来上がるまでのストーリーを知ると沢山の人の手が入ってようやく一枚の紙になるということに、鳥肌が立ちました。
──そして移住までしてしまったと。
はい。これは東京にはない環境だと思い、思い切って移住を決め、ご縁があって今は阿波和紙の製造に携わらせていただいています。
──和紙を製造している時に、物体としての和紙に触れながら、アーティストとしてどんなことを感じていらっしゃるのでしょうか。
自然の中で育った和紙の原料に、素材が持つ「気配」を感じます。一つとして同じものはない素材だからこそ、「その時・一瞬一瞬」と向き合う感覚が鍛えられるように思います。
──今回の展示では、その「気配」が重要な位置を占めているんですよね。
この世界には、目の前にあるはずだけれど、目には見えない「気配」が存在すると思っています。”目に見えるものだけが全てではない”と感じます。そして、感じ方は様々です。
今回の展示のコンセプトは、夜桜を見たことがきっかけで誕生しました。自分の中で「美しい」と思っていたものに対して、「怖い」と正反対の感情を抱いた経験自体がきっかけとなっています。
桜には、美しさと怖さがある。夜桜を見た翌日、同じ桜を見たら、そこにはいつも知っている美しさがありました。桜を見たときのインパクトから、その感覚は日常にも潜んでいるものだと気付きました。夜に見た桜は知らない気配を漂わせ、朝の桜は知っている気配を身に纏い安堵をも感じました。
会場では、夜に見た桜からインスピレーションを受けた作品が右側に、朝の桜からのものが左側に並んでいます。そして、朝と夜はパキッと分かれているわけではなく、グラデーションがかかっている時があります。そのあたりの微妙な感じを、作品で表現したく、気配を感じさせる演出をギャラリー全体に散りばめています。
季節や天気、心の持ち方によって、目の前のものは見え方が変化します。どこか心を許すような気配も、この展示作品から、感じてもらえたらと思います。
──編込みのようなオリジナルの柄を生み出し、その手法に“NODOKA”と名付け様々なモチーフを描き続けていらっしゃいますが、誕生秘話や、この柄に込めた想いなどについて教えてください。
この柄は、光を描くための独自のデザインです。2014年頃から描き始めました。最初は何気なく自分の内から出るままに鉛筆を走らせていました。描き続けていくと、「心が動くものは光に魅力が宿っている」という持論にたどり着き、それらは光の粒子のようなものだと捉え始めました。
東京に住んでいた頃は、わりと人工的な光に触れることが度々あったので、具象的なものを表現していたことが多かったんです。
徳島に来てからは都会の景色と180度変わり毎日のように自然を観察しているので、自然界に起こる現象の中にこの紋様が見え始めています。
川の水面のきらめきや、木漏れ日の光と影にも……。そして最近は、目には見えない「気配」にも、この紋様の感覚が潜んでいるのではないかと感じつつあります。
──なるほど! 今後、今までトライしたことはないけれど、作品で表現してみたいことはありますか。
和紙の魅力の一つに、手触りがあると思っています。人に直接触ってもらう作品作りということも、やりたいと思っています。
和紙には、ささやかかもしれないけれど音も、香りもあるので、そちらにも気を配っていきたい……。全ての「五感」に気づきを与えてくれる和紙という素材で、視覚的な鑑賞だけではない作品制作への挑戦もしてみたいです。例えば「芝生を裸足で走ったら気持ちいい」という感覚のように、和紙に触れた時の感覚なんかも、重要視したいですね。
また、仕事柄、浮世絵に触れる機会が増えているのですが、かつて歌川広重や葛飾北斎も桜の景色を描いていました。そんな浮世絵師の作品について想いを馳せたことも、本展の作品作りに反映されています。今後もそういった日本的なモチーフを、いろいろな場所や大きな視野から見て、インスピレーションを受けていきたいと思っています。
──最後に、ご自身の最終的な「夢」についてお聞かせください。
旅するように表現を続けていきたいです。
その場・人との調和から作品を生み出し続け、感動の連鎖を味わいたいです。
“NODOKA”(の柄)を持って、世界に羽ばたきます!
Interview & Text: Mayumi Horiguchi